16, 09. 2010 アルハンブラの丘


階段を下りた先は,比較的新しい建造物だった。頭の中は,未だ壮麗な装飾に満たされた空間が渦巻いていたが,廊下を進む内に僅かずつ現実に引き戻されて行くのが判る。逆光の小さな窓に,動物の図が描かれていた。チケット売場で貰ったパンフレットに描かれていたものと同じ図柄だった。建造物は新しいので,以前からのものではない。何かに描かれていた図柄だろうか。





廊下は庭園へと誘い,戸外へ出た。特別趣向を凝らした庭園ではなかったが,緑は興奮を鎮めてくれた。幾つかの領域に分けられた庭園だった。境の塀には様々な種類の蔦が絡まっていた。フジの絡まるアーチもあった。見上げると、咲き遅れのフジの花が見えた。イチジクかと思われる樹に,青い実が付いていた。






幾つもアーチを潜り、庭園を出た。目の前には,街の方向へ向けた大砲が並んでいた。長い時間を過ごした丘に,名残りを惜しみながら門を出た。帰り道は下りなので,思いがけず早くグラダナスの門へ着いた。空が急に暗くなり、大粒の雨が降り出した。傘は重く嵩張るので,バッグには小さく折畳んだビニール製の雨合羽を入れてあった。フードも付いているので,支障はなかった。急坂を下り,午前中門への入り口を探した広い道路へ出た。雨は小振りとなって,虹が出た。





全く予定していなかったのだが、時間に充分余裕があったので,虹が出た北東の方へ行って見ようと思い立った。右手の丘の上には,アルカサバで最も高い塔が見えていた。また雨が降り出したが,構わず歩いた。右手に小川が現れ,コマレスの塔が直ぐ右上に見える位置に来た。川は丘に沿って北東の方へ曲がっている。左手に少し幅の広い道路があったので,左へ折れた。かなりの急勾配だった。アルハンブラの丘から見えた、アルバイシン地区へ向っている筈だった。直交する道路に出て、南を眺めた。道路は途中で曲がって見晴らしは良くなかったが,かなり高い位置である事が判った。コロン大通りやホテル前から続くラ・コンスティトゥシオン大通りの位置を考え,西へ向いながら坂を下りる事にした。車が入れぬ様な細い道が網の目の様に入組んでいる。道は小石が埋められた舗装の道で、急勾配の所は階段になっていた。殆どの家が,白壁の塀で囲まれていた。雨が上がって明るくなって来た。ジグザグに曲がりながら下りて来ると,目の前が開けた。狭い公園があり、公園の縁は石垣で囲まれ,その下は崖になっていた。アルハンブラの丘が見渡せた。




虹に導かれて,思いがけぬ風景を目にすることが出来た。長く佳い一日だった。